1712年に誕生したルソーはフランスで
音楽活動を行いながら文明社会への問題意識を深め、1750年に『学問芸術論』、1755年に『人間不平等起源論』を発表して文明社会における人間の徳の退廃や私的所有に由来する不平等を指摘している。1743年から1744年にかけて
ヴェネツィアでフランス大使の秘書官として勤務していたルソーはヴェネツィア共和国の問題から着想を得て『政治制度論』を構想する。これは未完であるが、本書『社会契約論』はその一部として出版された。
ルソーは人間の本性を自由意思を持つものとして考え始める。
自然状態では各個人は独立した存在として自己の欲求を充足させるために行動し、生存の障害が発生すればその解決のために各個人同士で協力関係を求める。こうして生じる個々人の約束は
社会契約の概念として把握される。社会契約の枠組みに従って国家が正当化されるためには人間の自由な意思が社会契約の中で保障されていなければならず、本書では個人のための
国家の在り方を論じている。
社会における全ての構成員が各人の身体と財産を保護するためには、各人が持つ財産や身体などを含む権利の全てを共同体に譲渡することを論じる。人びとが権利を全面的譲渡することで単一な人格とそれに由来する
意思を持つ国家が出現すると考えられる。国家の意思をルソーは一般意思と呼んでおり、これは共同体の人民が市民として各人の合意で形成したものであると同時に、一般意思が決定されてからは臣民として絶対服従しなければならない。なぜならば一般意思とは各個人の私的利益を求める特殊意思とは反対に公共利益を指向するものであるからである。したがって一般意思をもたらす人民は
主権者として見直すことが可能となる。
しかし人民主権の理念を具体化するためには多くの実際的問題が認められる。人民は主権者であり、一般意思が公共の利益を指向するとしても、人民の決議が常に正しいとは限らない。人民全員が参政することは非現実的であるばかりでなく非効率である。そこで人民に法を与える立法者の役割が導入される。立法者は制度や習俗を構築することで共同体を構築する。さらに人民の習俗が維持するための監察官を用意することで社会契約や法の絶対性を教義とする市民宗教を教育し、共同体を維持する。