覆面座談会事件 wikipedia|無料辞書
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◆経緯
『
SFマガジン』
1969年2月号に「覆面座談会 日本のSF '68〜'69」が掲載された。その内容は、評論家
石川喬司・翻訳家
伊藤典夫・翻訳家
稲葉明雄・『SFマガジン』編集長
福島正実・副編集長
森優(
南山宏)の5人の出席者がA〜Eの匿名に隠れて、当時の日本のSF作家たちを遠慮なく批評するものだった。俎上に上せられた作家たちの名は、以下の通りである(座談会の小見出しに拠る)。
出席者の発言は、たとえば小松に関しては
:
D 「でも、両者(『
継ぐのは誰か?』『見知らぬ明日』)に共通してるのは、小松左京の初期の良さというかナイーヴさというか、それがなくなってることだね。小説としてはむしろ退化してる。データをあんまり生まのまま放り出しすぎるよ」
筒井に関しては
:
C 「『時代と寝ている』というか『時代に踊らされている』ところは多分にあるね。『
幻想の未来』で持ってた貞操を時代という深情けの年増にとられたんだな。(笑)
:A 「それはやっぱり彼の方にも好き心があったからだよ。(笑)チョイトといわれたとたんにアイヨって行っちゃったんだ」
豊田に関しては
:B 「通俗の極みだよ。何とかでゴザルといえば時代が出ると思ってる。(笑)」
:D 「文章にあまり品のないところは小松左京に似てる」
などといった具合であった。これらの発言が、この座談会でこき下ろされたSF作家たちの間に激しい反撥を呼んだ。
なお、匿名だった座談会の出席者は稲葉明雄を除いて、『SFマガジン』の発売直後に名乗り出て、遺憾の意を表明したという[豊田有恒『あなたもSF作家になれるわけではない』徳間書店、1979年、p.103]。
◆波紋
この座談会にショックを受けた星新一、小松左京、筒井康隆、平井和正、豊田有恒らは
熱海にある
文藝春秋社の寮で善後策を協議。
小松左京は『SFマガジン』編集部に抗議文を寄せ、匿名に隠れて他人を批判する行為を闇討ちにたとえて非難。特にB(稲葉明雄)の発言を「"新しい文学"たりうるはずのSFを、まことに趣味的ディレッタント[英語、イタリア語での。好事家、学者や専門家よりも気楽に素人として興味を持つ者を意味する。]的な"好ききらい"の態度で判定しようとする」ものとして批判した。
平井和正は1969年3月に同人誌「サイレント・スター」誌上でこの座談会の
パロディ『S・S22号評 ミスターX達との座談会』を発表した
[平井和正『夜にかかる虹 上巻』リム出版、1990年、p.87-p.93]。
福島と親交が深かった
矢野徹は『SFマガジン』
1969年5月号に架空匿名座談会「SF界に新風よ吹け!」を発表した。同時に福島と絶縁して、福島を批判する文章を発表した豊田有恒を矢野はたしなめ、小松たちと福島たちの間に生じた亀裂を埋めようとした。
これに対して福島は、日本のSFに対する真正面からの批評の必要性を頑強に主張。『SFマガジン』
1969年6月号に
山野浩一の評論「日本のSFの原点と志向」を載せ、日本のSFの閉鎖的状況に対する批判を山野に代弁させた。
最終的に福島は、この事件の責任を取る形で
早川書房を退社。『SFマガジン』
1969年8月号に退社の挨拶文「それでは一応さようなら」を発表し、「批評を嫌い、批判されたことを恨み、未練がましくあげつらう精神で、いったいなぜ、SFが書けるか。多少の批評をされたからというので、気落ちして書けなくなるような、そんな女々しい人間は、もともとものを書くべきではなかった。そんな弱々しい作家は、消えてなくなればいいのです」と小松たちを非難した。福島が独立した際の励ます会には、座談会で槍玉に挙げられた作家のほとんどが欠席した
[豊田有恒『あなたもSF作家になれるわけではない』徳間書店、1979年、p.54]。
豊田有恒は1976年から『
奇想天外』誌上で連載開始したエッセイ「あなたもSF作家になれるわけではない」でこの事件に触れ、最後まで名乗り出なかった
稲葉明雄をIのイニシャルで批判し、この連載がきっかけとなって稲葉明雄は名乗り出ることになった。
福島は
1976年に死亡した。大方のSF作家は生前の福島の功績を称えているが
[小松左京『小松左京のSFセミナー』集英社文庫、1982年、p.106][平井和正「掘り出した狼通信 24号」『ウルフの神話』徳間書店、1986年、p.38-p.39]、一部のSF作家たちの間では福島への感情的なしこりを残す形になった。
1979年に
光文社から『
SF宝石』が発刊された時には、編集長の
谷口尚規が関西在住の作家を訪ねた折、福島の知人であることを何気なく知らせたばかりに門前払いを受け、一部の作家たちから執筆拒否を受けたこともある
[宮田昇『戦後「翻訳」風雲録 翻訳者が神々だった時代』本の雑誌社、2000年、p138ISBN 4-938463-88-1]。
◆参考文献
・豊田有恒『あなたもSF作家になれるわけではない』徳間書店、1979年
・豊田有恒『自殺コンサルタント』あとがき(
三一書房、1969年)
・福島正実「特別日記」(早川書房『SFマガジン』
1969年12月号所載)
・豊田有恒「福島氏に答える」(早川書房『SFマガジン』
1970年1月号所載)
◆脚注
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